GS華やかなりし頃、僕はザ・スパイダースのファンだった。だが彼らを好きだったのは作品が良かったからで、メンバーの誰かを取り立てて贔屓にしていた訳ではなかった。そんな僕がメンバーの誰よりも注目していたのが「かっぺちゃん」ことベースの加藤充だった。当時グループの中で、いや「人気GSの中で」と言った方が良いかもしれないが、彼ほど地味なミュージシャンはいなかった。もともとGSの中でベーシストというのは目立たない存在だったが、ワイルドワンズのエー坊やカップスのマー坊などは若くてルックスが良かったから女の子たちのアイドルだった。それに比べて、かっぺちゃんは当時30才をとうに過ぎていて普通のオジサン風だったから、誰の目を引くこともなかったのだろう。だが僕は、彼のその地味さが強烈に印象に残っていて、その存在を決して忘れたことがなかった。そして今、86歳になったかっぺちゃんは、現役のベーシストとして活動を続けている。この暗い時代に彼の存在は希望の光を与えてくれる。